では、退職金の法的根拠はどのようになっているのでしょうか。

(1)労働基準法

(作成及び届出の義務) 第89条 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。

<絶対的必要記載事項>
①始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては、就業時転換に関する事項
②賃金(臨時の賃金等を除く。以下この項において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締め切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
③退職に関する事項(解雇の事由を含む)

<相対的必要記載事項>
退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
②臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
③労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
④安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
⑤職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
⑥災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
⑦表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
⑧前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

(労働条件の明示)
第15条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の命令で定める事項については、命令で定める方法により明示しなければならない。
2 前項の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
3 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は必要な旅費を負担しなければならない。

 

(2)労働基準法施行規則第5条

書面で明示すべき労働条件の範囲) 第5条  使用者が法第15条第1項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。ただし、第4号の2から第11号までに掲げる事項については、使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。
①労働契約の期間に関する事項
②就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
③始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
④賃金(退職手当及び第5号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
⑤退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
⑦臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第8条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関す る事項
⑧労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
⑨安全及び衛生に関する事項
⑩職業訓練に関する事項
⑪災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
⑫表彰及び制裁に関する事項
⑬休職に関する事項
2 法第15条第1項後段の厚生労働省令で定める事項は、前項第1号から第4号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)とする。
3 法第15条第1項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。

 

 以上のように、退職金について定めをした場合には、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法、退職手当の支払の時期に関する事項について、就業規則を作成し届け出をしなければならず、また労働契約書等を作成し労働者に対して明示しなければならないことになっています。

 

(3)退職金の不利益変更についての裁判例

 退職金の不利益変更は、通常、就業規則等の改定を通じて行なわれます。就業規則としての退職金規程を不利益に変更する場合は、「高度の必要性」が要求されます。
 また、退職を控えた一部の労働者に対して、具体的な不利益が及ぶため、「不利益の程度やそれを緩和する代償措置の存否・ 内容」が、裁判では変更の合理性判断において重視されます。

 最高裁判決では、
・「就業規則は会社の法律であり、その内容が合理的なものであり限り個々の労働者の同意がなくとも変更ができることを認めた」秋北バス事件 (最大判昭和43.12.25 民集22‐13‐3459)
・「代償となる労働条件を提供していなかったことを理由として、退職金の不利益変更の合理性を否定した」御國ハイヤー事件 (最二小判昭58.7.15 労判425‐75)
・「不利益の程度、変更の必要性の高さ、変更の内容、関連するその他の労働条件の改善状況に照らすと、新規程への変更の合理性を認めた」大曲市農協事件 (最三小判昭63.2.16 労判512‐7)
・「退職金支給率の引き下げに高度の必要性があることを肯定する一方、労働者の不利益を補填する代償金も不十分であり、定年年齢引き下げにより退職時期が早まることなどから、当該労働者に限って、就業規則の適用の効力を否定した」朝日火災海上保険(高田)事件 (最三小判平8.3.26 民集50‐4‐1008)
といった判例があります。

 下級審裁判例では、
空港環境整備協会事件 (東京地判平6.3.31 労判656‐44)のように合理性を肯定するものもありますが、合理性を否定するものが比較的多いといえます。
 例えば、
・「退職金の賃金としての側面を強調して、会社に業績悪化などの事情があるとしても、労働者の同意なしに退職金を不利益に変更することはできないとした」 大阪日日新聞社事件 (大阪高判昭45.5.28 判時612‐93)、アイエムエフ事件 (東京地判平5.7.16 労判638‐58)
・「退職金規程の中で「従業員の代表との協議により改廃することができる」と定められている場合には、協議を経ることなく一方的に不利益に改定された退職金規定の効力を否定した」 三協事件 (東京地判平7.3.7 労判679‐78)
・「退職金を従来の約3分の2ないし2分の1に減少させるような著しい不利益変更の場合、経営環境の不良、従業員のほとんどの同意、改定後の退職金の額が全産業の平均的な水準にあること、加算年金または選択一時金の支給を受けることができることなどを考慮しても、合理的な内容と認められないとした」 アスカ事件 (東京地判平12.12.18  労判807‐52)
といった判例があります。

 このほか、否定判例として、日本コンベンションサービス事件 (大阪高判平10.5.29 労判745‐42)、やまざき事件 (東京地判平7.5.23  労判686‐91)、ドラール事件 (札幌地判平14.2.15 労判837‐66)などがあります。

(4)退職年金・企業年金の不利益変更についての裁判例
 退職金を年金の形式で定期的に支給することも多く、こうした退職年金の場合でも、就業規則によって使用者と退職者との法律関係が規律されます。

 企業年金についての裁判例では、
幸福銀行事件 ( 大阪地判平10.4.13 労判744‐54) では、「経営悪化に伴い自社年金の支給額を3分の1に減額したことについて、恩恵給付的性格が強いこと、受給者の大部分が同意していることなどを理由に、減額措置を有効とした」が、その後、「金融再生法による破綻処理中の年金支給打切りについては、これを違法無効とした」 幸福銀行 (年金打切り)事件 (大阪地判平12.12.20 労判801‐21)
・「財政逼迫などの必要性があり、代償措置などの内容も相当であるとして、独自の年金制度の廃止の合理性を肯定した」 名古屋学院事件 (名古屋高判平7.7.19 労判700‐95) があります。

 

退職金制度変更についての法的ポイント

※賃金や退職金などの労働者にとって重要な権利、労働条件を不利益に変更する場合、そのような不利益を労働者に及ぼすことが認められるだけの高度の必要性に基づいた「合理的」な内容でなければなりません。

※退職金等を不利益に変更する場合には、その不利益を緩和する代償措置や経過措置をとることが望ましく、「合理的」な内容かどうかの判断において、代償措置は、直接的なものだけでなく、間接的に不利益を緩和するものまでも含まれることがあります。

労働契約法は、上記について次の通り規定しています。

労働契約法第9条(就業規則による労働契約の内容の変更)
 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
 第10条
 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。(以下、省略)

 

  したがって、単に退職金原資の積み立て先を適格退職年金制度から他の制度へ変更しただけでは問題の解決にはならないのです。

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